第1回 がん神経科学研究会 開催にあたって(大会長挨拶)

名古屋市立大学大学院医学研究科
脳神経科学研究所 腫瘍・神経生物学分野 教授
このたび、「第1回 がん神経科学研究会」を開催できる運びとなり、大会長として心よりご挨拶申し上げます。私はこれまで、小児脳腫瘍の研究に携わる中で、「がん細胞が脳の中でどうふるまうか」を観察し続けてきました。その過程で痛感したのは、がんが決して“孤立した悪性細胞のかたまり”ではなく、その周囲にある神経回路やグリア細胞と密接に関わり合いながら、その性質を変化させていくということでした。がん細胞が神経ネットワークを呼び寄せ、神経活動が腫瘍の進行を後押しする——このような双方向の相互作用は、もはや特殊な現象ではありません。
こうした知見は、世界的にも急速に注目を集めています。“Cancer Neuroscience(がん神経科学)”という新たな学術領域は、ここ数年、欧米を中心に一気に盛り上がりを見せており、Nature誌などのトップジャーナルでも特集が組まれるようになっています。しかし、日本国内では、こうした分野横断的な潮流に対応する場がまだ整備されていません。
そこで、私たちはこのテーマに強い問題意識と可能性を感じている研究者が中心となり、ごく最近、世話人グループを立ち上げたばかりです。がんの分子病態を追う研究者、神経ネットワークを解析する神経科学者、臨床腫瘍医、薬理学者、データサイエンティスト——多彩なバックグラウンドを持つ仲間たちが、分野や世代を越えて“今こそ、この領域に挑戦しよう”と集いました。
この研究会には、成熟した“組織”ではなく、これから共に育てていく“空白と可能性”があります。がんと神経という一見異なる分野の接点にこそ、未来の治療や診断の革新のヒントが眠っている。そう信じる私たちが、自由に対話し、つながり、共に問いを深める場として、この「がん神経科学研究会」が始動します。
分野の垣根を越えて、新しい視点と連携を育む場に。そして、国際的にも誇れる日本発のネットワークとして成長できるよう、皆さまと一緒にこの場を創っていきたいと願っています。がんを知り、神経を知り、その交差点で未来の治療を描く——。そんな熱い思いを持つ皆さまと、この挑戦的な旅を共にできることを、心から楽しみにしております。
2025年10月
がん神経科学研究会 第1回大会長
川内 大輔